火災・津波から逃げられる体に|元消防官が勧める防災筋トレと備え

逃げられる体と動く設備を、セットで。週2〜3日の筋トレと消防設備の日常点検

台風が近づいたとき、夜中に火災警報器が鳴ったとき、津波警報が出たとき。避難は「気づく」「判断する」「動く」の3つがそろって、はじめて成り立ちます。消防設備は「気づく」を助けてくれますが、最後に「動く」のは自分の体です。

今回は、元消防官が代表を務める防災会社の目線から、筋トレや体づくりを「いざという時に逃げられる体」という防災の視点で考えます。運動を始めやすい秋に、体と建物の備えを一緒に見直してみませんか。

目次

住宅火災で亡くなる人の多くは高齢者、そして「逃げ遅れ」

2024年(令和6年)中に全国の住宅火災で亡くなった人(放火自殺者等を除く)は1,030人で、そのうち65歳以上が779人と全体の75.6%を占めています。また、死に至った経過では「逃げ遅れ」が465人(45.1%)にのぼります(出典:消防庁予防課「火災の実態について(令和6年中)」)。

逃げ遅れの背景には、火災に気づくのが遅れた、煙で方向がわからなくなった、体が思うように動かなかったなど、さまざまな事情が考えられます。消防の目線で大切なのは、「早く気づく仕組み」と「気づいたらすぐ動ける体」の両方をそろえておくことです。

沖縄の避難は「走る・上る」場面を想定しておく

海に囲まれた沖縄では、津波への備えも欠かせません。気象庁は、津波は伝わる速さが非常に速いため「見てから逃げるのでは間に合いません」としたうえで、海辺から離れ、より高い安全な場所へ避難するよう呼びかけています。高さ20〜30cm程度の津波でも、速い流れに巻き込まれるおそれがあるとされています(出典:気象庁「津波から身を守るために」)。

高台への坂道や、避難先の建物の上の階へ続く階段を、自分の足で上がりきる力。これは日ごろの体づくりで備えられる部分です。

一方、県民の体の状態には気になるデータもあります。沖縄県衛生環境研究所によると、2020年の沖縄県の40〜64歳では、男性の2人に1人、女性の3人に1人が肥満(BMI25以上)で、男女ともすべての年代で全国平均より高いとされています(出典:沖縄県衛生環境研究所「衛環研ニュース 第48号」)。働き盛り世代の体づくりは、自分の健康のためだけでなく、家族や従業員、お客さまを避難誘導する側に立つための備えにもなります。

公的ガイドが勧める「週2〜3日の筋トレ」

大人の目安

厚生労働省の資料では、成人の目安として、歩行またはそれと同じくらいの強さの身体活動を1日60分以上(1日約8,000歩以上)、息が弾み汗をかく程度の運動を週60分以上、そして筋力トレーニングを週2〜3日行うことが示されています(出典:厚生労働省「身体活動・運動領域資料」(健康日本21(第三次)推進専門委員会 資料3-1))。

高齢の方の目安

高齢者向けの推奨シートでも、筋力トレーニングは週2〜3日が推奨されています。筋力・バランス・柔軟性などを組み合わせた「多要素な運動」について、運動プログラムによって転倒のリスクが12〜32%、転倒・骨折のリスクが15〜66%低減したという研究結果も紹介されています(出典:厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」推奨シート:高齢者版)。転ばない体は、避難の途中でけがをしないことにもつながります。

また、複数のコホート研究をまとめた分析では、筋力を強くする運動を行っている人は、全死亡や心血管疾患などのリスクが10〜17%低いことと関連しており、週30〜60分程度でリスクの低下が最も大きかったと報告されています(出典:Momma H, et al. British Journal of Sports Medicine(2022年))。ただし、これは「関連」を示した研究であり、筋トレをすれば必ず病気を防げるという意味ではありません。

防災を意識した動きの例

特別な器具がなくても、自宅でできる動きはたくさんあります。たとえば次のようなものです。

  • イスを使ったスクワット(立つ・しゃがむ動作は、階段の上り下りや床からの立ち上がりの土台です)
  • かかと上げ(坂道や長い距離を歩くときのふくらはぎの力に)
  • 階段を使う習慣(エレベーターを1回やめるだけでも、避難経路の確認を兼ねられます)
  • 手すりにつかまった片足立ち(バランスを崩しにくい体づくりに)

持病のある方や、痛みがある方、久しぶりに運動する方は、無理をせず、始める前にかかりつけの医師などに相談してください。

消防設備の点検は、それ自体がちょっとした運動

消防設備の点検は、建物の中を上から下まで歩いて回る仕事です。最上階から1階まで階段を上り下りし、脚立に上って天井の感知器を試験し、消火器を1本ずつ持ち上げて状態を確かめる。点検の日は、それだけでかなりの歩数と上り下りになります。

体を動かすこと(身体活動)には、スポーツやトレーニングなどの「運動」だけでなく、家事や仕事などの「生活活動」も含まれます。厚生労働省の「生活活動のメッツ表」でも、階段を上る・下りる、荷物を上の階へ運ぶといった動作は、3メッツ以上(中強度以上)の生活活動として挙げられています(出典:厚生労働省「生活活動のメッツ表」)。点検の現場で使う体力は、そのまま避難のときに使う体力でもあるのです。

オーナー・管理者の方へ|日ごろの確認を「点検ウォーク」に

法令で定められた点検(機器点検・総合点検)は、建物によっては消防設備士などの有資格者が行う必要があります。一方で、日ごろの見回りは誰でもできます。エレベーターを使わずに階段で各階を回れば、建物の確認と体づくりを一度に済ませられます。

  • 廊下や階段、非常口の前に物が置かれていないか
  • 消火器が決められた場所にあり、さびや変形がないか
  • 誘導灯がきちんと点灯しているか
  • 住宅用火災警報器のボタンを押して、作動音が鳴るか

同じ場所をくり返し見て回っていると、建物の「いつもの状態」が自然と頭に入ってきます。消火器はいつもこの位置にある、誘導灯はこの明るさで点いている、廊下はこれくらい片付いている――。正常な姿を知っているからこそ、「いつもと違う」にすぐ気づけます。消火器が見当たらない、誘導灯が消えている、通路に荷物が増えている。そうした小さな変化に目が留まるのは、ふだんの姿を覚えている人です。

この「気づき」が、故障や不備を早く見つけ、専門業者による点検や修理につなげるきっかけになります。火災に早く気づかせてくれるのは警報器ですが、設備の異常に早く気づけるのは、日ごろ建物を見ている人の目です。

週2〜3日の筋トレに加えて、ときどき階段で建物をひと回りする「点検ウォーク」を習慣にしてみてはいかがでしょうか。頻度は建物の使い方に合わせて、無理なく続けられるペースで十分です。脚立を使う作業や高い場所の確認は、転倒しないよう無理をせず、不安があれば専門業者に任せてください。

体の備えと建物の備えはセットで

どれだけ体力があっても、火災に気づくのが遅れれば、逃げるための時間は短くなります。住宅用火災警報器や自動火災報知設備は「早く気づく」ために、誘導灯や避難器具は「迷わず逃げる」ために設けられている設備です。いざという時に正しく作動しなければ意味がないため、定期的な点検が欠かせません。

特に、保育園や民泊、店舗、アパートなどを運営・管理している方は、自分だけでなく利用者や入居者を避難させる立場にあります。廊下や階段に物を置いていないか、非常口までの通路がふさがれていないかも、あわせて確認しておきましょう。

沖縄の住宅用火災警報器の設置状況については「沖縄の住宅用火災警報器は設置率全国最下位|今すぐ確認したい3つのこと」、民泊で必要な消防設備については「沖縄の民泊オーナー必見|消防法令の基準と必要な消防設備・届出を解説」でくわしく解説しています。

まとめ

2024年の住宅火災による死者の4割以上は「逃げ遅れ」でした。早く気づくための消防設備と、気づいたらすぐ動ける体。この2つをそろえることが、自分と周りの人の命を守る近道です。まずは週2〜3日、スクワットや階段の上り下りから始めてみてください。そして建物の消防設備がきちんと働くかどうかも、この機会に確認しておきましょう。

消防設備の点検・工事のご相談は株式会社もしも防災へ(電話 098-959-0304/お問い合わせ https://moshimo-bosai.jp/お問い合わせ/)。

参考文献・出典

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この記事を書いた人

消防官として17年勤めた経験を活かし、地域と消防をつなぐことで「もしも」を未然に防ぐ会社を設立しました。
確かな防火対策で、あなたの未来とあなたの大切な人をを守ります。

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